February 04, 2021お手入れ・ケア
ヌメ革とは?基本的知識からエイジングを楽しむための注意点まで
「ヌメ革」ってどんな革でしょう?
漠然とイメージはできるものの、他の革との違いや作られ方・特徴など、詳しいことはわからない人も多いのではないでしょうか?
ヌメ革は最も革らしさを楽しめる贅沢なレザーです。
同時に水に弱く傷がつきやすいため取り扱いにくいと言われることも。
以下ではヌメ革についての様々な情報に触れています。
最後まで読んでいただければヌメ革についての疑問が解消されるばかりか、その魅力を知りエイジングを試してみたくなるかもしれませんよ。
ヌメ革とは、動物の皮革をタンニンで鞣(なめ)しただけで、着色や表面加工などの仕上げを行わない革のことを言います。
タンニンとは植物によく含まれる渋み成分のことで、従来から皮を革にするために用いられてきました。
それは、「生皮の腐敗を防止するためにタンパク質や脂肪を取り除き、耐久性・耐熱性・柔軟性をもたせるために薬品などによる処理を施すこと」です。
つまり、動物の「皮」を、鞄や財布などに利用できる、乾燥しにくく腐りにくい「革」の状態にするのが鞣しなのです。
鞣し方法については、古来から煙で燻したり、動植物の油を塗ったり、樹液につけたりと様々な方法が行われてきました。
その中で最も発展したのがエジプト時代から行われているタンニン鞣しなのです。
タンニンが皮のタンパク質やコラーゲンと結合したり、皮繊維の間に残ることで革を柔らかくし、防腐性・耐熱性・耐薬品性を高めるのです。
タンニンとは、様々な植物に含まれる渋み成分です。
鞣し剤としては主にミモザやケブラチョ、チェスナットから抽出されたタンニンが使われています。
現在行われている鞣し方法は基本的に3種類。
「植物タンニン鞣し」以外に、化学薬品クロムを使った「クロム鞣し」、両方を用いた「混合鞣し・コンビ鞣し」です。
クロム鞣しは短時間で大量に鞣すことができるので、最も生産量が多くなっています。
クロム鞣しの革はキメが細かく柔らかく、かつ鮮やかな色を出すことができます。
一方、タンニン鞣しは数ヶ月の時間や手間がかかるため多くは生産されていません。
しかし、革は丈夫で上質、植物由来で人間や自然にも優しく、経年変化が楽しめるため人気があります。
1. 塩漬けされた原皮の水漬け・水洗い
2. 牛・馬は背筋に沿って半分に背割り
3. 石灰漬けにして脱毛処理
4. ローラー機(裏打機)に皮をはさんでフレッシング(脂肪除去)
5. 皮に染み込んだ石灰質の除去と酵素によるタンパク質の分解
6. タンニン液による鞣し
7. 水絞り・分断
8. 柔らかくなるまで加脂・セッター(シワ取り)
9. 自然乾燥
主流である従来からの「ピット鞣し」は、濃度や成分の違うピット槽をいくつも用意しなくてはならず、皮の深層部まで自然にタンニンを浸透させるためには数ヶ月という時間も必要です。
しかし皮への負担は少ないので上質なヌメ革が得られます。
一方、「タイコ鞣し」は、回転させることでタイコ内の突起物で皮を引っ掛け、繊維をほぐしながらタンニン液を浸透させるので時間の短縮が可能です。
場所も取らないため比較的安価で提供できますが、皮への負担も大きいと言えます。
そのため、「ピット鞣し」でできるヌメ革を「本ヌメ革」と表現する場合もあります。
特にトスカーナ地方ではタンナー(鞣し業者)が多く、イタリア植物タンニンなめし革協会が100%植物タンニン鞣しであることを保証するなど、品質維持にも力を入れています。
革は動物・年齢・加工方法によって様々な種類があります。
ではヌメ革には種類があるのでしょうか?
しかし、実は他の動物の皮をタンニン鞣しして作られたヌメ革もあるのです。
・馬ヌメ革(ホースヌメ) : 強くて柔らかい
・山羊ヌメ革(ゴートヌメ) : 薄く柔らかいが摩擦に強い
・豚ヌメ革(ピッグヌメ) : 薄く摩擦に強い。通気性がよく独特の毛穴がある
・羊ヌメ革(シープヌメ) : 薄く柔らかい、繊細な革
・鹿ヌメ革(ディアスキン) : 軽く柔らかいが耐久性が高い
また、本来の意味でのヌメ革はタンニン鞣し後、着色や加工がされない、白に近いベージュ色の革を指しますが、染料仕上げ(アニリン仕上げ)で色のついた革もヌメ革と呼ぶことがあります。
たくさんある革の中でも、特に革好きの人に人気なのはヌメ革です。
その理由は何でしょう。
ヌメ革の魅力や特徴について、見ていきましょう。
それは薬品を使って繊維を柔らかくしたクロム鞣しの革と違い、長時間タンニン液に漬けることで繊維の詰まったコシのある革となるためです。
表面加工がなされていないため傷や水には弱いですが、革自体が損傷することはなく、何十年と使い続けることができます。
本革独特の素朴な匂いや革本来のなめらかな手触りを持つヌメ革は、「革の中の革」とも呼ばれています。
具体的には、生きている時に出来た傷痕(バラキズ)・血管の痕(血筋)・シワやたるみを伸ばした痕(トラ)・毛穴・かさぶたの痕・虫さされ痕などです。
まさに本革ならではの個性であり味わいです。
手に入れたばかりの繊維の詰まった固いヌメ革は、使い続けることで繊維がほぐれてクッタリと馴染んできます。
日光や熱で日焼けをしてだんだん美しい飴色に変化したり、手の脂やケアオイル、摩擦によって艶を増したりもします。
年季が入るほど唯一無二の味わいがでてくるので、エイジング(経年変化)を楽しむためにヌメ革を持つ人も多いのです。
というのも、ヌメ革はきれいで上質な皮革を厳選した高価な革だからです。
反対に自然の刻印や色ムラがあまりにも目立つ皮革はヌメ革とはならず、顔料仕上げなどを施した革となります。
丈夫で長持ち、エイジングも楽しめるヌメ革は非常に魅力的ですが、デメリットもあります。
それは「取り扱いにくい」こと。
少しの水や汚れなら手入れによって目立たなくすることも可能ですが、一度ついた傷は基本的に消せないもの。
浅い傷なら目立たなくなることもありますが、ヌメ革にはほんの引っ掻き傷でもつきやすいので、取り扱いに注意が必要です。
エイジングが汚かったり、失敗してしまったというなら、その理由は2つ考えられます。
1つは「正しい手入れをしていない」。
もう1つは「クリームの塗りすぎ」です。
ちゃんとした手入れの方法については次章で触れるとして、ここではクリームを塗りすぎると色が暗くなりすぎたり、シミやカビの原因になってしまうことを強調しておきます。
また、ヌメ革が柔らかくなりすぎてクタクタになってしまうこともありますので、塗りすぎには注意してくださいね。
ほんの数滴の水や雨でもシミやふくらみ、色落ち、色移りの原因になってしまいます。
できるだけ水との接触を避ける、濡れたらすぐに拭き取り手入れをすることが大切です。
湿気を含んだ状態でクローゼットなどに長期間放置して置く場合も同様です。
革にはカビの繁殖に必要な栄養分が多いので、水分さえあれば簡単にカビがついてしまいます。
万が一カビができてしまった場合は、すぐにブラッシングしたり、硬く絞った布で取り除きましょう。
このように、ヌメ革は傷やシミがつきやすく、きれいなエイジングを目指すなら日常のお手入れが欠かせません。
とは言え、そういった傷やシミもヌメ革の味を出すとも言えるので、あまり神経質になる必要もありません。
ここではヌメ革の基本的な手入れについて触れていきます。
またコーティングされていないため、傷やシミがつきやすい状態です。
ところがヌメ革を日光浴させると、次のように変化します。
1. ヌメ革内部に含まれるタンニンが紫外線と反応して色を濃くしてくれる
2. 革の持つ油分が表面に出てきて全体に薄い保護膜を作ってくれる
これによって、使用時によく触る部分だけ色を濃くしてしまうなどの色ムラを避け、コーティングによって傷やシミをつけにくくすることができます。
もちろん、日光浴をさせなくても定期的なお手入れで経年変化を楽しめますし、色ムラも含めて自分だけの革に育てたい場合、日光浴は必要ありません。
あくまでも扱いやすくするための日光浴なので、ヌメ革の扱いに慣れていない人におすすめです。
1. まずはブラッシングして、表面のホコリや汚れを落とす
2. 直射日光ではなく、室内の明るい窓際などに置く
3. 時々柔らかい布で乾拭きし、出てきた油分を全体になじませる
4. 乾燥していると感じた時や日光浴後には、保革クリームを柔らかい布で塗る
日光浴の際は部分的に陰にならないよう、表裏均一に日焼けさせるように気をつけましょう。
期間はお好みでよいですが、目安としては夏なら1週間、冬なら2週間以上がよいでしょう。
また、使い始める前に防水スプレーで保護すると、さらに取り扱いやすくなりますよ。
ヌメ革は取り扱いにくいと言っても、基本的なお手入れはこれだけで十分です。
ホコリなどを溜め込まない、濡れたら拭き取る、汚れはすぐに落とすことが何より大切です。
しかし、たとえ毎日使うものでも年に2,3回は保革クリームなどを塗ってあげるのがおすすめです。
艶出しの効果があるだけでなく、コーティングにもなり、細かな傷やシミを目立たなくすることもできます。
使い始める前には防水スプレーをかけましょう。
効果がなくなるタイミングで定期的にかけるのもお忘れなく。
そういう場合はなるべく早く対処するようにしましょう。
定期的にお手入れされているヌメ革なら、布やクリーナー、革専用消しゴムを使って取り除くことが可能です。
詳しくは以下の記事を参考にしてみてください。
革製品のトラブル対処法について詳しく解説しています。
◆これで完璧!革財布の日常のお手入れ方法からトラブル対処法まで
ヌメ革の醍醐味は、何と言ってもエイジングによってできる憧れの飴色と艶ではないでしょうか。
しかも、同じアイテムでもその人の使い方や手入れの仕方、使用上の癖によって違った変化をするのはとても興味深いものです。
まさに自分の育て方次第というわけで、非常に愛着がわきますね。
財布など毎日使用するヌメ革なら、2年も経つと自然に飴色に変化し、色ムラなどが出て使用前とはかなり違った印象になります。
早く飴色にするには、できるだけたくさん使ってあげることです。
使い込むことで手の脂分が染み込み色味や艶がよくなり、繊維がほぐれて柔らかく馴染んできます。
もちろん毎日のブラッシングもしくは乾拭きも忘れずに。
それ以外にも早く飴色にするには次のような方法があります。
・クリーム・オイルを塗ってから日光浴させる
・クリームで艶をだす
・常に明るい場所に保管する
・日光浴を増やす
・紫外線もカットしてしまうため、防水スプレーはかけない
しかし、クリームの塗りすぎは色ムラやカビ、革を傷める原因にもなります。
色も、きれいな飴色ではなく黒ずんだ色になってしまいますので、毎回余分なクリームはきれいに拭き取ること、均等に塗り込むことに注意し、多くても週一回程度にとどめましょう。
また、直射日光での日光浴は厳禁です。
革が乾燥して変形したり、ひび割れの原因になってしまいます。
・日光浴はさせない
・使用頻度を減らす
・必要以上に触らない
・風通しのよい暗い場所に保管する
・防水スプレーをかけ、紫外線も防止する
カラーのヌメ革はどの色でも、エイジングによって、元の色に茶色を加えるような色変化をしていきます。
明るい色は徐々に濃くなり、ある程度でストップします。
生成りのベージュのヌメ革同様、色変化があるのは楽しいものですね。
・ベージュ→茶色(飴色)
・赤→赤茶色→茶色
・緑→カーキ→茶色
・青→ネイビー→焦げ茶色
・水色→緑→カーキ→茶色
・黄色→オレンジ→茶色
・茶色→焦げ茶色
・黒→黒
さらにエイジングによる革の色の変化によって、使い始めと数ヶ月後・数年後の革とステッチの色のコンビネーションも変わるので、いろんな印象を楽しむこともできますよ。
レザークラフトを楽しむ人に最もよく使われている革もヌメ革です。
クロム鞣しの革は柔らかくて縫いにくいのに対し、タンニン鞣しのヌメ革はハリやコシがあるので手縫いがしやすいからです。
かっちりした革小物づくりにも適していますね。
さらにヌメ革は、刻印が打てたり、カービング(革に模様を彫ること)ができたり、裁断面(コバ)は磨くだけでヘリ返しの必要がない点も魅力です。
もちろん、出来上がった作品のエイジングも楽しみですね。
いろんな大きさや色のヌメ革が入っているはぎれセットは安価で、初心者が練習をするのに適しています。
切り売りでは、10cm×10cmの大きさが1DS(デシ)という単位で表示されます。
半裁は牛1頭分の半分の革ですが、牛の大きさによってそれぞれサイズが違います。
一般的には1枚約240DS~300DSの大きさで、切り売りよりも安くなるため、レザークラフトに慣れている人や、たくさん作品を作る人に購入されています。
革小物のレザークラフトには、厚さ1.5mmや2mmのヌメ革が良いようです。
最も簡単なのは、市販の革用染料を使う方法。
混色もできる上、塗りつけるだけで簡単に染色できます。
染料には水溶性・アルコール性があります。
その他にも、ヌメ革の染色方法があります。
昔ながらの「ビネガルーン染め」なら、酢と錆びた釘を使って黒く染めることができます。
ただワントーン暗くしたいだけならミンクオイルを使う方法もあります。
ヌメ革は染色性が高いので、勉強すれば草木染めなどに挑戦することも可能ですよ。
自作する喜びに加え、使う楽しみもあり夢が膨らみますね。
ヌメ革についてまとめてみました。
取り扱いにくいとされるヌメ革ですが、職人の技が垣間見える高級アイテムから、自作の革小物アイテムまで、幅広い魅力を持つ革でしたね。
なにより本革の味わいを最も感じられるヌメ革は、側に置いてきれいに飴色になるのを見守っていたい気持ちにさせられます。
日頃の手入れさえ怠らず大事に使えば、エイジングに失敗することもありません。
これを機にヌメ革を育ててみてはいかがでしょうか。
漠然とイメージはできるものの、他の革との違いや作られ方・特徴など、詳しいことはわからない人も多いのではないでしょうか?
ヌメ革は最も革らしさを楽しめる贅沢なレザーです。
同時に水に弱く傷がつきやすいため取り扱いにくいと言われることも。
以下ではヌメ革についての様々な情報に触れています。
最後まで読んでいただければヌメ革についての疑問が解消されるばかりか、その魅力を知りエイジングを試してみたくなるかもしれませんよ。
ヌメ革とは?
ヌメ革とは、動物の皮革をタンニンで鞣(なめ)しただけで、着色や表面加工などの仕上げを行わない革のことを言います。
タンニンとは植物によく含まれる渋み成分のことで、従来から皮を革にするために用いられてきました。
皮を革にする工程が鞣し(なめし)
では、「鞣す」とは具体的に何を指すのでしょう?それは、「生皮の腐敗を防止するためにタンパク質や脂肪を取り除き、耐久性・耐熱性・柔軟性をもたせるために薬品などによる処理を施すこと」です。
つまり、動物の「皮」を、鞄や財布などに利用できる、乾燥しにくく腐りにくい「革」の状態にするのが鞣しなのです。
鞣し方法については、古来から煙で燻したり、動植物の油を塗ったり、樹液につけたりと様々な方法が行われてきました。
その中で最も発展したのがエジプト時代から行われているタンニン鞣しなのです。
タンニン鞣しとは
タンニン鞣しは鞣し剤にタンニンを使います。タンニンが皮のタンパク質やコラーゲンと結合したり、皮繊維の間に残ることで革を柔らかくし、防腐性・耐熱性・耐薬品性を高めるのです。
タンニンとは、様々な植物に含まれる渋み成分です。
鞣し剤としては主にミモザやケブラチョ、チェスナットから抽出されたタンニンが使われています。
現在行われている鞣し方法は基本的に3種類。
「植物タンニン鞣し」以外に、化学薬品クロムを使った「クロム鞣し」、両方を用いた「混合鞣し・コンビ鞣し」です。
クロム鞣しは短時間で大量に鞣すことができるので、最も生産量が多くなっています。
クロム鞣しの革はキメが細かく柔らかく、かつ鮮やかな色を出すことができます。
一方、タンニン鞣しは数ヶ月の時間や手間がかかるため多くは生産されていません。
しかし、革は丈夫で上質、植物由来で人間や自然にも優しく、経年変化が楽しめるため人気があります。
ヌメ革ができるまでの工程
原皮がヌメ革へと仕上がるには、以下の工程をたどります。1. 塩漬けされた原皮の水漬け・水洗い
2. 牛・馬は背筋に沿って半分に背割り
3. 石灰漬けにして脱毛処理
4. ローラー機(裏打機)に皮をはさんでフレッシング(脂肪除去)
5. 皮に染み込んだ石灰質の除去と酵素によるタンパク質の分解
6. タンニン液による鞣し
7. 水絞り・分断
8. 柔らかくなるまで加脂・セッター(シワ取り)
9. 自然乾燥
ヌメ革であるピット鞣しとタイコ鞣しの違い
タンニン液に浸す鞣しの作業には、ピット槽に浸け置く「ピット鞣し」と、タイコと呼ばれる巨大洗濯機のような機械を使う「タイコ鞣し」があります。主流である従来からの「ピット鞣し」は、濃度や成分の違うピット槽をいくつも用意しなくてはならず、皮の深層部まで自然にタンニンを浸透させるためには数ヶ月という時間も必要です。
しかし皮への負担は少ないので上質なヌメ革が得られます。
一方、「タイコ鞣し」は、回転させることでタイコ内の突起物で皮を引っ掛け、繊維をほぐしながらタンニン液を浸透させるので時間の短縮が可能です。
場所も取らないため比較的安価で提供できますが、皮への負担も大きいと言えます。
そのため、「ピット鞣し」でできるヌメ革を「本ヌメ革」と表現する場合もあります。
イタリアではヌメ革作りが盛ん
ヌメ革作りで欠かせない、タンニン鞣しが盛んなのはイタリアです。特にトスカーナ地方ではタンナー(鞣し業者)が多く、イタリア植物タンニンなめし革協会が100%植物タンニン鞣しであることを保証するなど、品質維持にも力を入れています。
ヌメ革の種類にはどんなものがある?
革は動物・年齢・加工方法によって様々な種類があります。
ではヌメ革には種類があるのでしょうか?
一般的には牛のヌメ革を指す
革と言えば牛革を指すことが多いように、ヌメ革と言えば一般的に牛のヌメ革を指します。しかし、実は他の動物の皮をタンニン鞣しして作られたヌメ革もあるのです。
その他のヌメ革
牛以外には、次のようなヌメ革があります。・馬ヌメ革(ホースヌメ) : 強くて柔らかい
・山羊ヌメ革(ゴートヌメ) : 薄く柔らかいが摩擦に強い
・豚ヌメ革(ピッグヌメ) : 薄く摩擦に強い。通気性がよく独特の毛穴がある
・羊ヌメ革(シープヌメ) : 薄く柔らかい、繊細な革
・鹿ヌメ革(ディアスキン) : 軽く柔らかいが耐久性が高い
また、本来の意味でのヌメ革はタンニン鞣し後、着色や加工がされない、白に近いベージュ色の革を指しますが、染料仕上げ(アニリン仕上げ)で色のついた革もヌメ革と呼ぶことがあります。
ヌメ革独特の魅力や特徴とは?
たくさんある革の中でも、特に革好きの人に人気なのはヌメ革です。
その理由は何でしょう。
ヌメ革の魅力や特徴について、見ていきましょう。
丈夫で長持ちする
まず、ヌメ革は他の革と比べて非常に丈夫で長持ちという性質があります。それは薬品を使って繊維を柔らかくしたクロム鞣しの革と違い、長時間タンニン液に漬けることで繊維の詰まったコシのある革となるためです。
表面加工がなされていないため傷や水には弱いですが、革自体が損傷することはなく、何十年と使い続けることができます。
革本来の風合いを楽しめる
また、特別な加工がないので、革本来のナチュラルな風合いを感じられるのもヌメ革の魅力です。本革独特の素朴な匂いや革本来のなめらかな手触りを持つヌメ革は、「革の中の革」とも呼ばれています。
皮革ごとの自然な個性が魅力
その上ヌメ革は、それぞれが持つ自然の刻印(ナチュラルスタンプ)を表面加工で隠さないため、1枚1枚の革の個性を楽しむことができます。具体的には、生きている時に出来た傷痕(バラキズ)・血管の痕(血筋)・シワやたるみを伸ばした痕(トラ)・毛穴・かさぶたの痕・虫さされ痕などです。
まさに本革ならではの個性であり味わいです。
エイジングが楽しめる
本革であるヌメ革は、時間とともに柔らかさ・色・艶が変化していきます。手に入れたばかりの繊維の詰まった固いヌメ革は、使い続けることで繊維がほぐれてクッタリと馴染んできます。
日光や熱で日焼けをしてだんだん美しい飴色に変化したり、手の脂やケアオイル、摩擦によって艶を増したりもします。
年季が入るほど唯一無二の味わいがでてくるので、エイジング(経年変化)を楽しむためにヌメ革を持つ人も多いのです。
上質で風格がある
最も本革らしさをもつヌメ革は皮革の代表格であり、その上質さや風格は誰もが認めるところです。というのも、ヌメ革はきれいで上質な皮革を厳選した高価な革だからです。
反対に自然の刻印や色ムラがあまりにも目立つ皮革はヌメ革とはならず、顔料仕上げなどを施した革となります。
「ヌメ革は取り扱いにくい」と言われる理由
丈夫で長持ち、エイジングも楽しめるヌメ革は非常に魅力的ですが、デメリットもあります。
それは「取り扱いにくい」こと。
とにかく傷がつきやすい
ヌメ革は高品質の本革ですが、やはり表面加工をしていないだけあって、表面につく傷や水、汚れには弱いという欠点があります。少しの水や汚れなら手入れによって目立たなくすることも可能ですが、一度ついた傷は基本的に消せないもの。
浅い傷なら目立たなくなることもありますが、ヌメ革にはほんの引っ掻き傷でもつきやすいので、取り扱いに注意が必要です。
エイジングが汚い!失敗するのはこういう場合
次にヌメ革が取り扱いにくいと言われる理由は、期待したようなきれいな飴色・艶にならない事があるからです。エイジングが汚かったり、失敗してしまったというなら、その理由は2つ考えられます。
1つは「正しい手入れをしていない」。
もう1つは「クリームの塗りすぎ」です。
ちゃんとした手入れの方法については次章で触れるとして、ここではクリームを塗りすぎると色が暗くなりすぎたり、シミやカビの原因になってしまうことを強調しておきます。
また、ヌメ革が柔らかくなりすぎてクタクタになってしまうこともありますので、塗りすぎには注意してくださいね。
水や雨によるシミに注意!
表面加工のないヌメ革は、水にも特別に弱いというのも取り扱いにくい理由の1つです。ほんの数滴の水や雨でもシミやふくらみ、色落ち、色移りの原因になってしまいます。
できるだけ水との接触を避ける、濡れたらすぐに拭き取り手入れをすることが大切です。
湿気や汚れによるカビに注意!
また、水滴や汚れをそのまま置いておくとカビが発生するので注意が必要です。湿気を含んだ状態でクローゼットなどに長期間放置して置く場合も同様です。
革にはカビの繁殖に必要な栄養分が多いので、水分さえあれば簡単にカビがついてしまいます。
万が一カビができてしまった場合は、すぐにブラッシングしたり、硬く絞った布で取り除きましょう。
ヌメ革は手入れが大事
このように、ヌメ革は傷やシミがつきやすく、きれいなエイジングを目指すなら日常のお手入れが欠かせません。
とは言え、そういった傷やシミもヌメ革の味を出すとも言えるので、あまり神経質になる必要もありません。
ここではヌメ革の基本的な手入れについて触れていきます。
使う前に日光浴をさせる理由
まっさらな状態のヌメ革は、白色に近いナチュラルな薄いベージュ色をしています。またコーティングされていないため、傷やシミがつきやすい状態です。
ところがヌメ革を日光浴させると、次のように変化します。
1. ヌメ革内部に含まれるタンニンが紫外線と反応して色を濃くしてくれる
2. 革の持つ油分が表面に出てきて全体に薄い保護膜を作ってくれる
これによって、使用時によく触る部分だけ色を濃くしてしまうなどの色ムラを避け、コーティングによって傷やシミをつけにくくすることができます。
もちろん、日光浴をさせなくても定期的なお手入れで経年変化を楽しめますし、色ムラも含めて自分だけの革に育てたい場合、日光浴は必要ありません。
あくまでも扱いやすくするための日光浴なので、ヌメ革の扱いに慣れていない人におすすめです。
ヌメ革への日光浴の方法
ヌメ革の日光浴は以下の手順で行います。1. まずはブラッシングして、表面のホコリや汚れを落とす
2. 直射日光ではなく、室内の明るい窓際などに置く
3. 時々柔らかい布で乾拭きし、出てきた油分を全体になじませる
4. 乾燥していると感じた時や日光浴後には、保革クリームを柔らかい布で塗る
日光浴の際は部分的に陰にならないよう、表裏均一に日焼けさせるように気をつけましょう。
期間はお好みでよいですが、目安としては夏なら1週間、冬なら2週間以上がよいでしょう。
また、使い始める前に防水スプレーで保護すると、さらに取り扱いやすくなりますよ。
日常的にブラッシング・乾拭きをする
使い始めたら、日常的にブラッシングや乾拭きをするようにしましょう。ヌメ革は取り扱いにくいと言っても、基本的なお手入れはこれだけで十分です。
ホコリなどを溜め込まない、濡れたら拭き取る、汚れはすぐに落とすことが何より大切です。
年に2,3回はクリームを使って艶出しをする
ヌメ革は使うごとに自然と艶がでてくるものです。しかし、たとえ毎日使うものでも年に2,3回は保革クリームなどを塗ってあげるのがおすすめです。
艶出しの効果があるだけでなく、コーティングにもなり、細かな傷やシミを目立たなくすることもできます。
防水を忘れない
水に特に弱いヌメ革は、自然に表面がコーティングされるまでは防水対策した方が安心です。使い始める前には防水スプレーをかけましょう。
効果がなくなるタイミングで定期的にかけるのもお忘れなく。
シミ・汚れ・黒ずみの落とし方
このようにお手入れをして、気をつけながら取り扱っていても、意図せずシミや汚れ、黒ずみがついてしまうこともあります。そういう場合はなるべく早く対処するようにしましょう。
定期的にお手入れされているヌメ革なら、布やクリーナー、革専用消しゴムを使って取り除くことが可能です。
詳しくは以下の記事を参考にしてみてください。
革製品のトラブル対処法について詳しく解説しています。
◆これで完璧!革財布の日常のお手入れ方法からトラブル対処法まで
ヌメ革の色変化
ヌメ革の醍醐味は、何と言ってもエイジングによってできる憧れの飴色と艶ではないでしょうか。
しかも、同じアイテムでもその人の使い方や手入れの仕方、使用上の癖によって違った変化をするのはとても興味深いものです。
まさに自分の育て方次第というわけで、非常に愛着がわきますね。
財布など毎日使用するヌメ革なら、2年も経つと自然に飴色に変化し、色ムラなどが出て使用前とはかなり違った印象になります。
早く飴色にする方法
新しいヌメ革の白さや堅さが気に入らない、ほどよい飴色になるまで待っていられないという場合はどうしたらよいでしょう?早く飴色にするには、できるだけたくさん使ってあげることです。
使い込むことで手の脂分が染み込み色味や艶がよくなり、繊維がほぐれて柔らかく馴染んできます。
もちろん毎日のブラッシングもしくは乾拭きも忘れずに。
それ以外にも早く飴色にするには次のような方法があります。
・クリーム・オイルを塗ってから日光浴させる
・クリームで艶をだす
・常に明るい場所に保管する
・日光浴を増やす
・紫外線もカットしてしまうため、防水スプレーはかけない
しかし、クリームの塗りすぎは色ムラやカビ、革を傷める原因にもなります。
色も、きれいな飴色ではなく黒ずんだ色になってしまいますので、毎回余分なクリームはきれいに拭き取ること、均等に塗り込むことに注意し、多くても週一回程度にとどめましょう。
また、直射日光での日光浴は厳禁です。
革が乾燥して変形したり、ひび割れの原因になってしまいます。
ゆっくり飴色にする方法
逆に、ゆっくり飴色にしたい、ゆっくり経年変化を楽しみたい、という場合は、次のような方法を試すとよいでしょう。・日光浴はさせない
・使用頻度を減らす
・必要以上に触らない
・風通しのよい暗い場所に保管する
・防水スプレーをかけ、紫外線も防止する
染色されたヌメ革も色変化を楽しめる
タンニン鞣し後、染料仕上げのみを行ったカラーの革もヌメ革と呼ばれることがあります。カラーのヌメ革はどの色でも、エイジングによって、元の色に茶色を加えるような色変化をしていきます。
明るい色は徐々に濃くなり、ある程度でストップします。
生成りのベージュのヌメ革同様、色変化があるのは楽しいものですね。
・ベージュ→茶色(飴色)
・赤→赤茶色→茶色
・緑→カーキ→茶色
・青→ネイビー→焦げ茶色
・水色→緑→カーキ→茶色
・黄色→オレンジ→茶色
・茶色→焦げ茶色
・黒→黒
ステッチ色とのコンビネーションで違った印象に
また、ヌメ革の小物や財布は、同じ色のアイテムでもステッチ色が違うだけでガラッと印象が変わります。さらにエイジングによる革の色の変化によって、使い始めと数ヶ月後・数年後の革とステッチの色のコンビネーションも変わるので、いろんな印象を楽しむこともできますよ。
ヌメ革はレザークラフトも楽しめる
レザークラフトを楽しむ人に最もよく使われている革もヌメ革です。
クロム鞣しの革は柔らかくて縫いにくいのに対し、タンニン鞣しのヌメ革はハリやコシがあるので手縫いがしやすいからです。
かっちりした革小物づくりにも適していますね。
さらにヌメ革は、刻印が打てたり、カービング(革に模様を彫ること)ができたり、裁断面(コバ)は磨くだけでヘリ返しの必要がない点も魅力です。
もちろん、出来上がった作品のエイジングも楽しみですね。
はぎれや半裁で購入
レザークラフト用のヌメ革は、はぎれやサイズ指定の切り売り、半裁で購入します。いろんな大きさや色のヌメ革が入っているはぎれセットは安価で、初心者が練習をするのに適しています。
切り売りでは、10cm×10cmの大きさが1DS(デシ)という単位で表示されます。
半裁は牛1頭分の半分の革ですが、牛の大きさによってそれぞれサイズが違います。
一般的には1枚約240DS~300DSの大きさで、切り売りよりも安くなるため、レザークラフトに慣れている人や、たくさん作品を作る人に購入されています。
革小物のレザークラフトには、厚さ1.5mmや2mmのヌメ革が良いようです。
染色性も高いヌメ革。染色方法も様々
また、染料仕上げされていないナチュラルなヌメ革なら、自分で好きな色に染めることも可能です。最も簡単なのは、市販の革用染料を使う方法。
混色もできる上、塗りつけるだけで簡単に染色できます。
染料には水溶性・アルコール性があります。
その他にも、ヌメ革の染色方法があります。
昔ながらの「ビネガルーン染め」なら、酢と錆びた釘を使って黒く染めることができます。
ただワントーン暗くしたいだけならミンクオイルを使う方法もあります。
ヌメ革は染色性が高いので、勉強すれば草木染めなどに挑戦することも可能ですよ。
いろいろなアイテムを自作する楽しみ
ヌメ革を使ったレザークラフトでは、キーホルダー、小銭入れ、財布、名刺入れ、カードケース、ベルト、スマホカバー、メガネケース、トートバッグなど、身近なものを手縫いで作れます。自作する喜びに加え、使う楽しみもあり夢が膨らみますね。
まとめ
ヌメ革についてまとめてみました。
取り扱いにくいとされるヌメ革ですが、職人の技が垣間見える高級アイテムから、自作の革小物アイテムまで、幅広い魅力を持つ革でしたね。
なにより本革の味わいを最も感じられるヌメ革は、側に置いてきれいに飴色になるのを見守っていたい気持ちにさせられます。
日頃の手入れさえ怠らず大事に使えば、エイジングに失敗することもありません。
これを機にヌメ革を育ててみてはいかがでしょうか。