October 13, 2022
革とアルコールの相性
お客様からのお問合せ「ハンドルの革が剥がれてくる」
TRANSIC MD(マーチャンダイザー)小寺がお答えします。先月、立て続けにお客様から「ハンドルの革がポロポロと剥がれてくる」というお問合せをいただきました。
生産現場に確認
カスタマーの濱中から朝一番に内容の相談を受け、すぐに生産現場に、何かあった時に確認できるよう残してもらっている同じロットの革を確認してもらいました。しかし、革が剥がれてくる現象は確認できず、剥離強度(革の繊維や塗膜の剥がれ強度)簡易テストでは問題がないとの回答でした。
抜き取りテストで色差、剥離強度、堅牢度を確認
弊社では、全ての生産現場に革が入荷したら、現地で色差、剥離強度(革の繊維や塗膜の剥がれ強度)、堅牢(摩擦での色落ち)度を、抜き取り検査にて行います。その時には問題がなかったのに、なぜ今になって出てきたんだろう、、、と不思議に思いました。
革の品質管理
TRANSICで販売しているブランドの本革は、すべて食肉用の動物の皮の2次利用で、原皮は北米、ヨーロッパ、アジアから仕入れ、それぞれのカバンに合うよう皮をなめし※、加工を行います。自然素材である皮革の種類やなめし方法、仕上げ方法、使用部位によって時に、剥離強度が弱かったり、堅牢度が弱くなったりしてしまうことは、どうしても避けられません。
※なめし:動物の“皮”を薬品を使って柔軟性・耐久性・耐腐敗性をもたせ“革”に加工する技術のこと
色差
例えば、イタリアのタンニンなめし革は、経年変化を重ねて革の味わいが深くなる良さはありますが、ロットごとの色差は大きく、さらに堅牢性も非常に弱いです。それは仕上げの色止め加工の際、染色の時点で染み込ませた油との相性で色止めが浸透しにくくなるためです。
それは、オイルレザー系も同様で、この革を使用した鞄を持つとき、淡い色の洋服を着るのはお勧めできません。
剥離強度
また剥離強度についても、お腹の部分は特に弱くなりがちです。お腹は皮膚がたるみ、シワが多い部分です(人間も一緒ですね。。。)。
なめしが十分でなく、特に顔料仕上げの場合、銀面(革の表面)が浮いてしまって、少し引っ掻いただけでも銀面が剥がれてきてしまうことがあります。
原皮の時点での個体差もありますが、剥離がひどい部分は生産現場で使用しないようチェックされています。
このように革の品質管理は管理項目は多いのですが、革の生産自体はロットで行うため、お客様からいただいたお問合せ内容は、同じ生産ロット上で確認できるケースがほとんどです。
「ハンドルの革が剥がれてくる」ー原因は?
今回お問合わせいただいた剥離については、同じロットで発見されなかったため、個体差の問題なのかと考えていたところ、ふと昨年工場で話題になった「アルコールが原因の堅牢度問題」が頭をよぎりました。もしかして、今回の剥離は、アルコールが乾かないうちにハンドルを触ったのではないか、と。
同じロットの商品でテスト
すぐにカスタマー濱中に連絡し、本社にある同じロットのカバンでテストをしてもらい、私は手元にあった同じロットの革のハギレでテストをしました。そうすると、お客様のおっしゃっていた「表面がボロボロと剥がれてくる」という現象が2つとも確認できたのです。
その後、お客様からいただいた写真を確認すると全く同じ症状。
その写真を2件の革屋さんに確認したところ、やはりアルコールが原因で間違いないとのことでした。
加工時の溶剤がアルコールに反応
今回の場合は「なめしが甘くて銀面が剥がれた」という訳ではなく、加工の仕上げに使用された「塗料の中のシンナー系の溶剤がアルコールに反応してその塗膜が剥がれている」とのこと。特に顔料仕上げの溶剤だと、このようにアルコールと反応して塗膜(溶剤の膜)が剥がれてきます。
一方で染料やタンニンなめし革はシンナー系のものが入っていないため、このような反応は起きませんが、その代わりシミや白く色落ちしたようになります。
革にアルコールは厳禁
いずれにせよ、革とアルコールの相性は合いません。それは、アルコールの成分が革をなめしたり加工するときの溶剤や染料と反応するためです。
一度塗膜が剥がれてしまったり、色が落ちてしまったら、もう一度染め剤を吹きかけるしか修理方法がなく、海外製品は全く同じ溶剤を用意することは、とても難しいです。
除菌・消毒時のアルコールに注意!
そこで対策としては、手を除菌したアルコールはしっかりと乾燥させてからカバンを使用してください。また、すぐに持ちたい時は、綺麗な乾いたハンカチの上からハンドルを持つのもいいですね。
カバンの菌が気になるという方は、コロンブスさんから出ているノンアルコールタイプの除菌・抗菌スプレーを使ってみてください。
革のお手入れには、基本的にアルコールを使用できません。
お客様が除菌したくても革にアルコールはNG。
コロンブスさんは見事にその願いを叶えてくれました。
せっかく購入したカバンを大切にご使用いただくためにも、アルコールの付着には十分気をつけていただきたい、コロナ禍で20年使用しているカバンに、うっかりアルコールが飛びシミを作ってしまった小寺の注意喚起でした!